BL小説 栗本薫「元禄心中記」天の巻+地の巻 [BL小説]

BL小説 栗本薫「元禄心中記」天の巻+地の巻
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総合:★☆☆☆☆
ストーリー性:★★★☆☆
H濃度:☆☆☆☆☆
腐国ノ狂王点:★☆☆☆☆

原作:栗本薫

内容紹介:未だかつてない程、将軍吉綱の寵愛を受けたことで知られる、絶世の美貌を持つ「柳沢保明」との関係を軸に、数々の美童をめぐる心中事件をお届けする、コユイ流血時代モノ短編集。「地の巻」に至っては、かなりエグいですので、要注意。


感想:
++テーマ++
この業界で意外と見かけないのが、「心中」をテーマとしたBL作品である。
なぜだろう?
イマドキ、心中なんて、嘘クサイっていうか、リアルじゃないってことなんだろうか?
なんでもアリの世の中であるから、二人で死ななきゃいけない理由なんて、イマドキ、そうそう転がってはいないのは確かだ。
腐国ノ狂王が、過去、拝聴したBLCD化された作品の中で思い当たる作品っていったら、このラストって、もしかして心中ってことなのかな?って思わせた「個人教授★★★★☆」くらいなものか。
最近拝読したBLコミックでは、「いつか雨がふるように★★★★☆」(国枝彩香)が記憶に新しい。
「心中」って、意外とない「オチ」の付け方なのである。
で。
やはり、ソコに目をつけた、栗本大センセイは流石である。
しかも、それは、お耽美ムンムンの世界。「心中」+「お耽美」と、くれば、テーマとしては、最強コンビである。
実際、本書で紹介されているエピたちは、コユイおはなしばかり。本当に興味深い作品だ。
「イマドキ」なBLモノとは真逆にある本作。およそ「萌え」とは遠いところにある作品です。
そんなわけで一見、相当な「お固い時代モノ」であるようにみえて抵抗があるが、なぁんだ、その実。蓋を開けてみれば、内容は、お耽美というよりは猟奇的なエグいストーリーばっかりで、イマドキの心理ホラーもびっくりなことになってます。

いずれにせよ、作者が流石この世界の大御所だけあって、いまさらながら、本書で「日本のBLの原点」を再確認できる作品です。
“魔性の美童とそれに心惑わされる男たちがおりなす“このテのおはなし。
喰わずもの嫌いにならないで、一度は食しておきたいジャンルであることは間違いないと思います。



++文体。++
BLが、まだBLと呼ばれていなかった、そんな時代。BLというジャンルがまだ、耽美小説と呼ばれていた時代の、栗本薫(中島梓)センセといえばそう、いわばこの世界の古典中の古典。この世界に興味を持った誰もが、一度はその起源を辿ってみたくなるような、そんな先に行き着くところ。まさに、BL界の紫式部?とでもいいましょうか。そんなお方でいらっしゃいますね。
センセイのJUNE時代の小説道場では、現在の人気どころで英田サキセンセ、榎田尤利センセなどなど、そうそうたる作家センセイ方を育てられた、BL界の母的なお顔ももっていらっしゃいますから、頭が上がりません。
でも……。
実は、私。
栗本薫女史の作品を拝読させていただくのは、わたくし本作が初めてでございます。
日本純文学スキー(否、男性スキー)のわたくしでございますので、男性の手による耽美もの(例えば三島由紀夫とかオスカーワイルドとかね)は、国内外作品にかかわらず、過去にけっこう読破いたしておりましたが、女性作家の手によるっていうのは、少女マンガをのぞいては、全くのヴァージンでありました。(漫画もどちらかというとジャンプ系スキーでしたね)

で、前置きはこれまでにして、率直に感じたこと。
それは。
現在のBL小説に染まっている一読者としていわせていただければ、
「あらま~、なんて味気がない文体」
ということである。
題材よし。ストーリーよし。で、脳がエクスタシーを感じないわけないんだけど。。。。
なぜか。。。。味気ない。。。。
ま、解りやすく言えば、文体から萌えが全く感じられないっつーことであります。

一文にあまりにも情報を詰め込みすぎているせいなのか。それとも、「賢く」「お固い」「時代風」な文体が味気なさを感じさせるのか?
まるで、説明文を読んでいるかのようであります。
大先生様の作品に対する意図的な計算?なのかもしれませんが、なにせ、他作品を拝読しておりませんので、このセンセが普段、どんな文体でお書きになるのは、存じませんが。
本書は、読んでいて、疲れる文体であるということだけは、確かであります。
もっと、流れるような、もしくは、くだけた文体で表現することができていれば、充分、脳がエクスタシーを感じ得たと思うんです。
素材はいいのだから、
マッパシーンにしたって、もっとエロく、エロく、エロく、耽美、耽美、耽美に味付けして書くこともできたはず☆
状況はエロいっちゅーのに、エロさが、足りな~いっ!!!!
だから、読んでいて、なーんか、消化不良を起こしてしまう、って感じ。
できれば、せめて、マッパシーンだけでも、文体崩さなくてもいいから、もう少し、「特濃お耽美」を魅せてほしかった。。。。
と。
ちと、残念な腐国ノ狂王なのである。

っーか、本書のジャンルは、BL扱いじゃないのか???



++中身のおはなし。++
で。
やっと中身のおはなし。
中でも、わたくしが★を出してもいいかなと思った作品は、
「心中西国譚(上)」+「心中夢浮橋(下)」★☆☆☆☆である。
京・室町の老舗「加賀屋」の美貌の一粒種「惣三郎」の数奇な破滅的人生が描かれている。
ウブな総三郎は、犯されることによって流血沙汰となり、佐渡へ島流しにあう。そこで、屈強の悪人たちの犬と成り下がり、淫靡の限りをつくした日々を強いられる。。。。そして再び帰京した惣三郎は、魔性の色気を備えた世にもまれな美貌として姿をあらわすことになるのである。しかし、惣三郎は、密かに復讐を心に誓っていた。。。。
と、まあ、こんなかんじ。
大変興味深い。短編ではあるけれど、この作品を骨格に、もっと肉を付け、「一個の生命」として魂を吹き込んでいけば、映画化できそうな感じである。
が。
既述のとおり、文体が、せっかくの興味深いテーマを、ただこの「こ難しい」特濃文章によって味気のないモノになってしまっているのが実に実に残念なのだ。

でも、このエピのエグイラスト。なかなかイイのである。腐国ノ狂王的には、CD化してもよいと思うくらいである。でも、オハナシとして聴ける脚本に書き換えるの、大変そうだけど。。。。BLCDにしては、異色のお耽美CDに仕上がると思うな[黒ハート]

その他のおはなし。
「無明火心中」☆☆☆☆☆ 美貌の弟「数馬」に異常に執着する「一鬼」の狂愛。

「前髪心中」☆☆☆☆☆ 大人たちに汚されながらも、精神的な清らかさと純愛を貫く、美童同士の悲恋の物語。

「くちなわ心中」☆☆☆☆☆蛇に魅入られた狂疾の美童「新太郎」と彼に魅入られた「小四郎」の狂慕の末の悲劇。

「心中油地獄」☆☆☆☆☆ (注!)これはお耽美というよりは、むしろ猟奇的な監禁モノ。多量の流血あり。かなりのエグさであります。あまりおススメは、できません。

「心中乱菊記」☆☆☆☆☆ スリの菊之介が狙った相手は、よりにもよって北町奉行所同心の鬼塚源吾だった。そのことから菊之介は、源吾に脅迫されて関係を結ぶが。。。。
これまた、猟奇モノ。。。。

「小日向心中」☆☆☆☆☆ 美童「粂之助」を付け回す狂気の男の影。やがて粂之助は、その男にとらえられ、犯されるが、実はその男は、行方をくらませていた実父だった。。。。
と、まあ、またもや。。。。な展開です。。。。もはや、萌えのカケラもありません。

「元禄心中異聞 松蔭組秘録」☆☆☆☆☆保明が吉綱に献上するために組織した美童から成る松陰組。初な美童「弥之介」と病弱の「右之助」の初恋が保明の知れとるところとなり、引き裂かれることから始まる悲劇の物語。「黒」保明です。

「元禄心中異聞 椿説沢蛍火」☆☆☆☆☆男女を極めた綱吉が愛し執着した只一人の小姓、主税(=保明)が、晩年を迎え、自らが初めて、綱吉に手篭めにされた当時のエピや、保明の嫉妬を買いたくて、綱吉が、故意にその籠妃と保明の3Pを強要した当時のエピなどを回想する。



++BLと美貌。++
コレを読んでいると、つくづく、「美童に生まれたら悲劇だ!」と思ってしまう。
美しく生まれると、大抵は、誰かの手によって運命を無理やり狂わされ、不幸の道へと堕ちてゆくのがお約束なのだ。
本書を読んでいると、美童って存在は、当時、玩具扱い。「やり殺す」っていうけど、本当に、やり捨て状態の、やり殺し状態。本書は、ほとんど、性の生贄に捧げられた哀れな美童たちの「死」の物語であります。

そもそも、BLの登場人物っていえば、美貌の持ち主であることが断然多い。(一昔前は特に。)最近でこそ、イマドキのフツーなキャラっていうのが目立ってくるようになったが、それでも、確率的にいえば、カプのどちらかが美貌の持ち主って設定であるっていうのは、やっぱり、この業界、半ばお約束になっているのである。
「美しいと思うものを凌辱してしまいたい。」
「自分だけのものにしてしまいたい。」
という思いは、「美童をみて衆道に走った」昔も、
「イケメン(←死語?)を愛でる腐界の住人の方々の大勢いる」、今も、
変わらない不変のテーマなのかもしれないですねぇ。。。。
(実際、わたくし腐国ノ狂王も美人が大好物でありますから[黒ハート]
誰だって、キタナイよりはキレイが好きですもんね~。
「美貌」と「BL」は切っても切れない、お約束コンビなんですわな~。
そういう意味でも、美食家のみなみなさまにとって、美貌の宝庫であるBLの世界は、
やはり、病みつきになる世界であるのは、当然と言えば当然の話。
今後もこの業界。
悲劇の運命に弄ばれる「定番中の定番キャラ」、すなわち、「美貌キャラ」をドンドン排出してくれることに期待いたしましょ!



++オマケ。++
柳沢保明。
コレ、実在の人物。早速ググってご尊顔を拝見いたしましたが、???
本当に、そんなに稀に見る美貌の持ち主であったのか?(その画像からはうかがい知ることはできません。。。。。)
でも、将軍吉綱に深く関わっていたのは確かなようなので、やはり保明が小姓のころから、男色家であった吉綱に食されていたというのも、あながちウソでもないのかもしれない。
いや、腐国ノ狂王としては、そうであってほしい限りです。
これってもしかしてある種のリアル萌え?

まあ、あと、読んでいて思い知らされるのは、
栗本大センセ。実によく「下調べ」していらっしゃるな~。ということです。
「惣三郎」だって、司馬遼太郎の新撰組血風録の加納惣三郎を思わせる名前だし。
本書は、「衆道」を連想させる関連キーワードがいくつもいくつもちりばめられております。
そんな観点からも実は、楽しめるんですね、この作品。

もしかしたら、わたくしは勉強不足で気付かないだけかもしれませんが、実は、本書に書かれている心中モノのエピは、過去に歌舞伎や大作家様の時代小説などですでに周知の題材たちであるのかもしれません。。。。
ともなると、歌舞伎や近松あたりの古典にも手を伸ばしたくさせる作品ですな、これは。

そういった意味でも、半ば、史実に基づいたこのテのおはなしって、深いですよね。広がります。
だから、読む方としては、いろいろ「妄想」してみたり「深読み」してみたりと、文体に文句をつけつつも、
結構たのしめちゃった腐国ノ狂王でございました。

とまあ、こんな感じで、今回は、BL界の大御所大先生作作品をご紹介いたしました。


++最後に。3言。++
①「いたぶられる美童の数奇な運命」にソソられる方々にはオススメ。
②「地の巻」では、心中物の耽美というよりは、むしろ後半、猟奇的殺人のオンパレードでありますので、抵抗ある方があるかもしれませんので、くれぐれもご注意を。
③本作、どれをとっても本当にコユいエピぞろい。まさに「やば~い宝石の原石をあつめたパンドラの箱」のような作品集であることは、まちがいありません。たまには、イマドキのぬる~いBL作品とは違った世界をのぞいてみたいお方には、本書はイイと思います。文体からすると、万人受けする本ではありませんが、「お耽美」「美童」「心中」「悲恋」「猟奇的な愛」などのキーワードにピンとくるお方には、オススメですよ。




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